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遠山健太の運動子育て対談 アスリートに聞く好きなスポーツの見つけ方

【元飛込選手 萩谷佐央理さん 】小3のとき、体験教室で巡り合った「飛込」。空中に浮いて水中にもぐる感覚が好きだった

子どもに好きなスポーツを見つけてあげたい。そう願う親御さんは多いでしょう。そこで、トップアスリートたちに、いつどんなきっかけでそのスポーツを始めたのか、親は何をしてくれたのかなどをリトルアスリートクラブ代表トレーナー遠山健太がインタビュー。
今回は、元飛込選手 、萩谷(旧姓田辺)佐央理さんの登場です。「飛込」競技の魅力や始めたきっかけ、そして二人のお子さんの運動子育てについてうかがいます。

萩谷さんは小学3年生で飛込競技を始め、日本トップクラスの実力を発揮してきた

萩谷佐央理さんは茨城県水戸市生まれ。
小学3年生のとき、「飛込」の体験教室でその楽しさを知り、地元の「スポーツ少年団」で競技として「飛込」を本格的に始めました。
中学3年生のとき(2000年) 、全国中学水泳競技会で優勝。
高校2年生のとき(2002年)、全国高校総合体育大会(インターハイ)女子「飛板飛込」で優勝。
 
その後、女子チームがインカレで3年連続で団体優勝していた日本大学に入学。
大学1年生のとき(2004年)、国民体育大会成人女子「飛板飛込」で優勝。
ユニバーシアード出場を目指しましたが残念ながら叶わず、大学卒業とともに競技生活に終止符を打ちました。現在、4歳、2歳のお子さんのお母さんです。

遠山と萩谷さんとの出会いは、遠山が国立スポーツ科学センター勤務時代(2004−2008年)。日大でユニバーシアード出場を目指していた萩谷さんのトレーニングサポートのアシスタントをしていました。

「飛板飛込」で優勝した大学1年生の国体のエキシビジョン。 「3m飛板飛込」で3人合わせて後踏切前宙返り2回半 を披露。 (一番 右が萩谷さん)
「飛板飛込」で優勝した大学1年生の国体のエキシビジョン。 「3m飛板飛込」で3人合わせて後踏切前宙返り2回半 を披露。 (一番 右が萩谷さん)

幼少期の運動は外遊びと水泳。「飛込」との出合いは小学3年生のとき

遠山:僕が萩谷さんのトレーニングのアシスタントに入ったのは大学生のときだったと思いますが、「飛込」を始めたのはいつですか?

萩谷さん:小学3年生のときです。親が夏休みの短期教室を見つけてきてくれて1週間くらい通ったんです。楽しくなってそのまま「スポーツ少年団」に入って続けることにしました。

遠山:ご出身の水戸市内には「飛込」ができるプールがあったんですね?

萩谷さん:茨城国体のときに建てられたプールがあり、そこが練習拠点になっていました。ただ老朽化したため取り壊しになり、高校のときに室内プールができました。

遠山:飛込用のプールがあるのは珍しいですね。

萩谷さん:そうだと思います。ただ、小さい頃練習していたのは外プールだったので使えるのは夏のみ。高校のときにできたプールは室内でしたが、冬はスケートリンクになってしまうので、やはり使えるのは夏だけでした。1年を通してプールが使えるところはいい練習ができると思います。そういった意味で石川県は環境が整い、いい指導者もいます。

遠山:環境は大切ですよね。「飛込」を始める前は、何か運動の習い事をしていたんでしょうか?

萩谷さん:3歳くらいからスイミングに通っていました。私は4人兄弟の一番下なんですが、3つ上の兄が一緒に競泳をやっていて、「飛込」教室も一緒に行きました。「飛込」は私だけ始め、小学4年生まで競泳と並行してやっていました。

遠山:両方プール系ですね。親御さんも水泳をされていたとか?

萩谷さん:いいえ。親は「私たちがやりたければ応援するよ」というスタンスでした。

遠山:小さいとき、外遊びもしていましたか?

萩谷さん:はい、よくしましたね。兄にくっついてひたすら外で遊んでいました。近くの山に行ったり、秘密基地的なものを兄の友だちと作ったり。

遠山:体験教室で初めて「飛込」をしたとき、恐怖感はなかったのでしょうか?

萩谷さん:そのときは楽しいと思ってしまったんです(笑)。でも、本格的に競技を始めてから、後悔しました。回転などいろいろな技をやるようになっていくと、失敗すれば水面に体を打ち付けられる。それがかなり痛いし怖いんです。

とびうお杯全国少年少女水泳競技大会 「1m飛板飛込 」で後ろ宙返り1回半を披露。(小学生のころ)
とびうお杯全国少年少女水泳競技大会 「1m飛板飛込 」で後ろ宙返り1回半を披露。(小学生のころ)

北日本選手権にて。上段右から4番目。(小学生のころ)
北日本選手権にて。上段右から4番目。(小学生のころ)

遠山:飛込競技は5m、7.5m、10mの固定された飛込台から飛込む「高飛込」と、1m、3mの高さに設けた弾力性のある飛板を利用して行う「飛板飛込」の2種類がありますが、体験では何を行ったんでしょうか?

萩谷さん:体験は固定台の低いところから始めるのですけれど、最終的には一番高い10mから飛べる子は飛びます。

遠山:「飛込」のどんなところに惹かれてやってみたいと思ったのですか?

萩谷さん:スイミングに通っているときから、遊びでコーチにプールに投げ飛ばされて、バシャンと水面に落ちるときが楽しいなと思っていたんです。「飛込」でも、空中を飛んだあと水中にもぐるという感覚が似ていて楽しかったんです。

小さい頃に始めたほうが、高所から飛込むことへの恐怖心が少ない

遠山:萩谷さんは「高飛込」と「飛板飛込」のどちらをしていたんですか?

萩谷さん:中学生までは両方をやっていました。

遠山:「高飛込」 と「飛板飛込」ではだいぶ違うものですか?

萩谷さん:はい、飛ぶ板が弾むのと弾まないのではかなり違います。私は高校2年生のときに肩を脱臼して、高いところからの衝撃に耐えられなくなり、「飛板飛込」に絞りました。「高板飛込」は、飛込位置が高い分、かなり体への衝撃も強いんです。

遠山:どういう種目があるんでしょうか?

萩谷さん:「飛込」の種目は、飛び出す方向によって、6群に分かれているんです。
その中から選んで、型と言われる「空中フォーム」を組み合わせていきます。さらに回転数の違いなどで難易度が変わっていきます。

*6つの種目*
⒈前飛込: 前方に向かって踏切り、前方に回転する
⒉後飛込:先端に後向きに立ち、踏切り、後方へ回転する
⒊前逆飛込:前方に向かって踏切り、後方へ回転する
⒋後踏切前飛込:先端に後ろ向きに立ち、踏切って前方に回転する。
⒌捻り飛込:第1~4群に捻りを加える
⒍逆立ち飛込:台の先端に逆立ちしたあと飛込む(高跳込のみ)

*4つの型*
A=伸型 
B=蝦(えび)型
C=抱型
D=自由型(捻りを伴う飛込を表し、A、B、Cいずれかの型を自由に選択し、組み合わせることができる)

とびうお杯「 1m飛板飛込」の 前逆飛込。(小学生のころ)
とびうお杯「 1m飛板飛込」の 前逆飛込。(小学生のころ)

遠山:「飛込」は小さいときから始めたほうがよいと言われますが、子どものほうが高所から飛込むことに対して恐怖心がないからでしょうか?

萩谷さん:そうですね。小学生から始めるケースが多いと思います。それより前から始めるのは「飛込」コーチの子どもくらいかと(笑)。大人になってからだとかなり怖いと思います。

「飛込」で最も重要なのは体幹の力。どんな競技にも共通する大切なもの

遠山:「飛込」にはどんな運動能力が必要だと思っていましたか?

萩谷さん:器械体操に似ているところがあるので、柔軟性、体幹の力、空間認知能力などが重要なのではないでしょうか?

遠山:僕もトレーニングを担当したとき、監督に勧められて「飛板飛込」に挑戦したことがあります。 どんな競技か体感したほうがトレーニングメニューを組むのに役立ちますから。

萩谷さん:そうでしたよね。やってみていかがでしたか?

遠山:普通に板を踏めば上にぴょんと軽くジャンプできると思っていたのですが、実際にやってみると、かなり強く踏まないと高く体が上がらない。しかも、何度か飛び板の上で跳ねているうちに板からずれて落ちてしまい、その板が体にザザザっと当たった記憶が(笑)。

萩谷さん:痛かったでしょうね。確か、真っ赤になっていましたよね?

遠山:はい、かなり痛かった(笑)。体の軸、つまり体幹が大切だなと実感しました。あとは下半身の力がないと蹴れないですよね。そして、1本飛んだらそれで終わりではなく、次の演技のために再び飛込台の高さまで登る必要がありますから、持久力も必要だと思いました。

萩谷さん:遠山さんには大学時代の3年間のトレーニングをサポートしてもらいました。いろいろリクエストを聞いてくれてメニューを組んでくれたので、ありがたかったですね。

遠山:自宅でもできるようにキャスター付きの椅子に座り、かかとで接地して手前に引くことによって前に進むトレーニングや競技特性を考慮した飛込競技用のスクワットなどをやってもらいましたよね。当時はいろいろ競技特性を考慮したトレーニングを実施してもらいましたが、今考えてみると、もう少し基本的なトレーニング種目をより多くやってもらったほうがよかったと思っています。

大学時代の練習風景。「飛板飛込」前逆飛込。
大学時代の練習風景。「飛板飛込」前逆飛込。

萩谷さん:おかげで下半身の力はしっかりついて、競技にもかせたと思います。 ただ、目指していた「ユニバーシアード」( 学生のためのオリンピックと称される国際大会)の予選会で成績が出せず、出場できませんでした。

遠山:「飛込」は大学卒業とともにやめたんですよね?  「飛込」をやってきたことが今も生きていると思うことはありますか?

萩谷さん:体幹の力はかなり生きていますね。現在、高校で体育の教師をしていて、授業ではいろいろな競技を教えます。もし、「飛込」をやっていなかったら、できなかったのではないでしょうか。どんな競技にも通じる体幹の力は大きいと思います。

わずか2秒にかける思い。プレッシャーに打ち勝って最高の演技を目指す

遠山:「飛込」の魅力はどこにあるのでしょうか?

萩谷さん:「飛込」では、飛板や飛込台から空中に舞い、入水するまでのわずか2秒弱の中で、一連の動作の技術の高さや演技の美しさを競います。採点競技なのでやっぱり見ていてきれいですよね。演技者としては、きれいなラインや放物線などを意識し、美しく飛ぶことを常に目指していました。それで、しぶきをあげずにまっすぐに入水できるとやっぱり気持ちいいんです。ほんの少しでも体に角度がついてしまうと、しぶきは上がってしまいますから。飛び出した瞬間に、「これ来た!」というのはわかります。

遠山:思い出に残っている大会はありますか?

萩谷さん:大学3年生のときの日本選手権「3m飛板飛込」の決勝が記憶に残っています。私より前に飛ぶ選手が「成功」、「成功」と、続けて技を決めてきていたのでかなりプレッシャーがかかっていたんです。そんな状況で技を決められたときは「やった!」という気持ちでした。
また、中学時代、全国大会で優勝したときも思い出深いです。予選を一位で通過したので、決勝で競技するのは一番最後。そこでも、その最後の1本を決めれば優勝という場面がやってきて、「すごく緊張しながらも決められた」という達成感がありましたね。

遠山:何の技を飛ぶかは事前に申告しておくんですよね?

萩谷さん:はい。飛ぶ種目を提出して、その通りに競技していきます。何本目にどの技を持ってくるかは自分で決められます。中学校の全国大会で優勝したときは、一番難しい技を最後に持ってきてたので、それが決まったのでなおさらうれしかったですね。 

地元茨城県開催のインターハイで「飛板飛込」優勝。(高校2年生のとき)
地元茨城県開催のインターハイで「飛板飛込」優勝。(高校2年生のとき)

子どもには体操や水泳でまず体の使い方を身につけてほしい

遠山:お嬢さんは2歳と4歳ですよね? 何か運動系の習い事はしていますか?

萩谷さん:上の娘はスイミングに入れています。下の娘は3歳になったら何かさせようと思っています。スイミング、体操が候補です。水泳も体操もそれを極めてほしいというわけではなく、運動の基本として習わせたいんです。体の使い方が身につけば、将来、どんな競技に行っても大丈夫だと思うので。これは「飛込」をやってきて実感した部分です。

遠山:外遊びも好きですか?

萩谷さん:そうですね。よく一緒に公園に行きます。今住んでいるのは水戸市ですが、広大な土地があるので公園も広く豪華な遊具があるところが多いですね。走るのも楽しいみたいです。保育園の帰りなども友だちと一緒になると、ひたすら駆け回っています。

冬はそり遊び。外で一緒に体を動かす。
冬はそり遊び。外で一緒に体を動かす。
休日は家族で公園へ。公園で遊ぶことも運動能力を育てるのに大切。
休日は家族で公園へ。公園で遊ぶことも運動能力を育てるのに大切。

遠山:お子さんの健康で気をつけていることはありますか?

萩谷さん:生活リズムです。平日は保育園に通っているのですが、毎日、寝付きはすごくよく、朝も早く起きます。そのリズムを週末に崩したくないので、スイミングを土曜日の9時からのクラスにしているんです。ふだんの生活のリズムで土日も過ごせることが大切だと思っています。

萩谷さんから学ぶ
子どもにぴったりのスポーツを見つけるためのヒント

  1. 幼児のころは、水泳や体操などで体の基本的な使い方を身につけると、将来、いろいろなスポーツに生かせる
  2. 外遊びも積極的に! 思いっきり走り回ることも大切
  3. 「飛込」を始めるなら小学生から。怖さより楽しさを感じる年代に!
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