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遠山健太の運動子育て対談 アスリートに聞く好きなスポーツの見つけ方

【元モーグル選手 下山研朗さん-後編-】 どんな競技でも子どもの挑戦を応援したい。まずは「好き!」という気持ちを大事に育てることから

子どもに好きなスポーツを見つけてあげたい。そう願う親御さんは多いでしょう。そこで、トップアスリートたちに、いつどんなきっかけでそのスポーツを始めたのか、親は何をしてくれたのかなどをリトルアスリートクラブ代表トレーナー遠山健太がインタビュー。
今回は、元モーグル選手 、下山研朗さんの登場です。後編では、指導者として、親としての子どもへの思いをうかがいます。

幼少期は「楽しい」「やってみたい」という気持ちを大切に!

遠山:今、地元でモーグルのコーチをしているそうですね。

下山さん:はい。種まきを頑張らないと、モーグル選手は増えていかないので。

遠山:何歳くらいで始めるお子さんが多いのでしょう?

下山さん:小学校低学年の子は自覚してやっています。もっと小さい子たちもいますが、コブを滑ることは、滑り台で遊んでいるのと同じ感覚だと思います。遊園地感覚ですね。

遠山:どういうきっかけで始める場合が多いのでしょう?

下山さん:ゲレンデでモーグルの滑りを見て、「ぐるぐる回っている人がいる、カッコいいぞ」と、始める感じです。テレビを見てとかではなく、実際に見て「あれやりたい!」という感覚になる場合が多いと思います。

遠山:一般の人から見えるところで練習をやっているのですね?

下山さん:そうです。ネット1枚挟んだ所でやっています。パフォーマンスが派手なので見栄えはいいんです。いろいろなケースがありますが、お父さんがやっていて子どもも始めるパターンと、ご両親はやっていないけど、レジャーでゲレンデを訪れ、子どもが「あれ、やりたい!」と始めるケースがあります。

コース作成/キーカー(ジャンプ台)のシェイプ
コース作成/キーカー(ジャンプ台)のシェイプ
コース作成/春のキャンプ準備
コース作成/春のキャンプ準備

遠山:体験会もあるんですか?

下山さん:はい。10㎝くらいのジャンプ台を作って、それができれば「ジャンプできたね!」とほめてあげます。いろいろな教え方があると思うんですけれど、私は“褒めて伸ばす”方式。「こんな楽しんだよ、カッコいいんだよ」ということを伝えるところから入ります。

遠山:指導で大切にしていることは?

下山さん:スポーツは「心技体」のバランスが大切だと思うのですが、現状では、小中学生の段階で「心技体」の「技」だけ重視される場合が多いんです。中学生で「もう限界」という子がいたり、無理してケガをしてしまう子もいます。私は、小学生に関しては、雪の条件のいいときだけがんがん跳ばせて練習量も増やします。しかし、体に負担となる悪い条件のときは跳ばさずに基本練習を行い、量より質という考えで練習量も減らします。トップギアを入れるのは高校から大学の時期と思っていて、中学生まではその土台づくり。
現役選手の星野順子選手は、大学から社会人で成績が伸びました。私は星野選手のプランが、理想と感じています。

春キャンプのビデオコーチング
春キャンプのビデオコーチング

子どもたちへのトレーニング指導
子どもたちへのトレーニング指導

その場にある環境を工夫し、楽しんでチャレンジしてほしい

遠山:モーグルでは華やかなエアーが注目されるけれど、採点配分はターンが全体の60%と重視されているよね。でも、やはりエアーで高度な技ができないとトップを狙えない?

下山さん:ジャッジの観点からいうと重要なのはターンですが、選手の気持ちから考えるとエアーが怖かったら、ターンでもスピードが出ない。攻めの滑りもできずにアピールできないんです。大前提として、エアーを恐怖心なく跳べることが必要だと思います。

遠山:そのためには小さいときからの経験が必要?

下山さん:そうですね。ジャンプして回るときの回転半径を考えれば、大人より子どものよきのほうが、単純に回りやすい。どんな運動でも背面は意識しにくいと言われるので、小さいときから始めたほうが、空中感覚が良くなりますし、恐怖心がなくなります。体操競技でもそうですよね。

遠山:夏でも練習できるウォータージャンプ施設があるほうが有利なの?

下山さん:そうですね。ウォータージャンプ施設がある地域の子は、学校が終われば、バンバン跳んでいます。そうやって育ってきたのが、岐阜県出身の堀島行真選手です。世界チャンピオンのミカエル・キングスベリー選手なんて、自宅にウォータージャンプ施設があるんです。残念ながら、新潟県にはウォータージャンプが未だにないので、新潟県の選手はジャンプが苦手な場合が多いんです。でも、子どもたちには、「コーチがいないからダメ」とか、「この環境だからダメ」ではなく、「この環境だったらこんなことができる、やってみよう」という考え方になってほしい。自分の子どもに対しても思いは同じですね。メンタルもそうですけれど、雑草魂があったほうが強くなるのではないかと思っています。

遠山:恵まれた環境に慣れてしまうと、自分で考えなくなる場合もあるものね。

下山さん:そうですね。自分で考え行動できるようになるためにも、早い段階で海外の選手の滑りや練習を見てほしいと思います。あれこれ言うより、自分で見て経験するほうが早いですから。自分の物差しでトップとの差が測れるようになると選手の意識もどんどん変わると思います。若い選手は、このあと高校、大学と、トレーニングや試合で無理してでも頑張らなくちゃいけない時期が絶対くるので、その前にいろいろな経験や知識を身につけて、準備してもらいたいです。

大会引率(全日本選手権)
大会引率(全日本選手権)
大会引率(ジュニアオリンピック)
大会引率(ジュニアオリンピック)

モーグルは個人スポーツ。自分で考え行動しないと上達できない

遠山:モーグルは個人スポーツだから、そういう意味でも自分で考えることは大切だよね。

下山さん:そうなんです。僕はソルトレイクシティオリンピックに出るまで、W(ウェイティング)ランクだったので、遠征費用などすべて自腹。オリンピックイヤーは地球を2周半するほど遠征が多かったため、経費節約のために日本に帰らずスイスでホテルの従業員用のアパートを借りて住んで遠征に参加したこともあります。そんなとき、ちょうど9.11のテロがあり、「あやしい東洋人が住んでいる」と、テロリストと疑われて通報されるということも(笑)。当時19歳で片言の英語で何とか切り抜けましたが、今思えば、こんな経験もこの競技の魅力だと思っています。たとえば野球部に所属していれば、すべて右へ倣えで、学校に行けばどこにでも連れて行ってくれます。けれど、モーグルという競技では、日本代表に選ばれない限り、すべて航空券や宿泊などのコーディネートを自分たちでやらなければいけません。なので「どこでも一人でやっていけますよ」というくらいの気持ちがないとダメなんです。

遠山:その経験は今の指導に生かしていますか?

下山さん:中学生になれば、「一人で北海道の大会に行ってこい」というくらいの気持ちでいます。国内なら迷子になっても言葉が通じるので何とかなりますから。僕が引率で行くときも、「僕、調べないからね、連れていってね」と言います。「自分がやらなくちゃ」、そう思うことで子どもは変わっていきます。地元に戻ってきて、自分からジャンプ台を作りたいと言ったり、アクションが変わるんです。

下山さんの指導者としての熱い思いに迫った
下山さんの指導者としての熱い思いに迫った

息子にはどんな競技でもいいから挑戦する楽しさを味わってほしい

遠山:息子さんは1歳だよね。スキーはやっているの?

下山さん:これからです。スキーは大好きなので一緒に楽しみたいですね。まずは「楽しい」を味わってもらいたいので、雨の日とか悪条件のときは絶対連れて行かないつもりです。「スキーやだ〜」って言われたら、立ち直れないですから。私もスキーに行けなくなるので(笑)。
まずは雪の上で遊ばせることから。ソリがよければソリをしますし。少しずつ「これをやってみな」という課題だけわたして、「スキーって気持ちいいよね」という体験をたくさんさせたいです。

遠山:大きくなったらモーグルをやらせたい?

下山さん:モーグルを「やりたい」と言えばやらせます。何の競技でもいいんですけれど、自分で挑戦する楽しさを味わってほしいという気持ちはあります。自分でそこに向かって挑戦している姿を見たら、きっと泣いちゃいますね。それが、地区大会で終わりなのか、全日本で終わりなのか、オリンピックまで行けるのかわかりませんが、100%挑戦した息子を応援し、褒めてあげたいですね。

遠山:モーグルを体験したい場合は下山さんのところに行けばいい?

下山さん:ぜひ来てください。新潟県の「エキップフリースタイルスキークラブ」です。春から秋までは群馬県の水上でウォータージャンプをやっています。

下山さんから学ぶ
子どもにぴったりのスポーツを見つけるためのヒント

  1. 実際に見ることで「やりたいスポーツ」が見つかることも。いろいろなスポーツが体験できる場に親子で一緒に行くのもおすすめ
  2. よい環境や指導者は大切だが、それがなければ、子ども自身が工夫して乗り越える強さも重要
  3. 親子で一緒に楽しみたいスポーツがあるなら、最初はできるだけ条件のよいところで体験させて、その競技の楽しさや気持ちよさを子どもにわかってもらおう
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